特別ウェブマガジン「落合陽一 天孫帰るってよ?」

取材:武本幸典

2026年7月11日より、メディアアーティスト落合陽一氏の個展が鹿児島県の「鹿児島県霧島アートの森」にて開催された。
タイトルは「天孫帰るってよ?」。
この題名を聞いた時、私は何か特別な高揚感を覚えた事を記憶している。
「ああ、落合さん、またやってくれたのだな」と。
落合氏と私のご縁は2025年に、私が京都で主催したダークアンビエント音楽のライブイベントにゲスト出演を依頼してからである。
ライブパフォーマンスの後に45分間のトークセッションをご一緒させていただき、その知識量の広さと深さ、そして独特の視点に驚かされる時間だった事は言うまでもない。
そして今回の個展「天孫帰るってよ?」である。
「天孫降臨の地で、天孫降臨をテーマにした展覧会は皆さんやっているんですよ。僕はもうひとつ捻ったものをやりたかった」
と落合氏。
成程、展示会場に散りばめられた作品の数々を拝見し、「これは捻った先に何かがある!」と思わしめるものがあった。
シンプルに言えば、一種独特の緊張感と圧倒される迫力があるのだ。
「天孫降臨は農耕を始めないとしなさそうじゃないですか」。
「人間が狩猟していた頃は天孫とか関係無くて」。
「天照やその孫が治める事が農耕民族であって」。

と落合氏は語る。
「天孫降臨とは逆になった今の時代でやるのは面白いだろう」という言葉にも、落合氏の頭の中に設計された今回の展示会への「面白い」意図があるのだろうと私は想像に難くないと思った。
また、タイトルが出て来るまでは半年の時があったという。
天孫降臨から、天孫が帰る話を考えていらしたのだ。
この「物語性」こそが、メディアアーティスト落合陽一氏の真骨頂が隠されていると確信した次第である。

「賢さは人間にとって大した重要性ではないんですよ。神性なんです。空海が賢かったといえば確かにそうなんですけど、より神格化されている。賢さより重要視されるものは多分にある訳です、近代合理性の前までは」
という言葉にも一種の哲学が垣間見える。
「そこで、天孫が帰るまでの話を考えてみた訳です。と同時に「計算機で自然を表現するとはどういう事か?」というのも出て来るのです」
と落合氏。
神話や仏話と近代科学・テクノロジーとの融合としての言葉「計算機自然」について触れていただいた。
「自動で計算やテクノロジーが進むっていう話ですよね。何が足りないかって、言語的なオブジェクトだったりするんです。プログラムを人間が書かないっていうのが重要で、それは僕の著書にも書いているんですが、そこを突破していく事が重要なんですよね」。
「そして今、人間がプログラムを書かないので「デジタルネイチャー」には近付いているんです。人間が研究しなくても研究結果は出るし、人間が絵を描かなくても絵は出来る。そんな中で計算機自然はどんな技術様式をもたらすのかという点ですね」。
「計算機=コンピューターなのですが、コンピューターがもたらす自然とは?というところです。人間の知性的、理性的なものは自然環境として存在しているんですね。人間は木を持って道具にするというところから始まっているのですから。調べていて面白かったのは、180万年前の住居跡があるのですが、それは火の使用よりちょっと前で。家から作るのか、まあそうか、っていう」。
「手で削って何かを作るのは330万年前からなんですね。面白いですよね、ホモ族より前にそういう動きはあって。物を貼ったりくっつけたりはホモ族からなんですね」
「さて、計算機とは?というところなんですが、「環境側がそれらを提供してくれる事」という事なんです」。

環境側が提供してくれるという点に私は疑問を持ったので、それを素直に質問してみた。
「今はホームページをAIに言えば作ってくれるけど、山の中にいてAIに牛丼を作って持って来てくれというのは違うじゃないですか」
と落合氏は笑った。
「人間が自然から知的な生産物を得たいとした時に、それが自然化されて手に入るという状態、というのがデジタルネイチャーですから。発明は人が生み出すものではなく、自然に生まれるものなのです」。

今回の展示会の見どころとは?という点においては、やはり聞かなくてはならない。
「メディアアーティストとして活動を始めた頃はとても変なマテリアルを使っている事が多かったんですね。シャボン玉とかプラズマとか」。
「また、映像創出をどう変化させるのかというところにも注力しました」。
「茶室だとか、リアルタイム生成のプログラムを使ったコンピューターグラフィックを使った作品などや、彫刻などもそうですね。メディアアートというと画面の中でピコピコやってるのかなと思われがちですが、立体造形もあれば作品が動く事もある」。

また、メディアアートの位置付けとは?というところにも私は注目して質問させていただいた。
「なかなか良い質問で難しいですね(笑)」。
「メディアアートと言われ始めたのは1960年代頃からなのですが、1970年代にはニューメディアとかメディア芸術とか言われていました。1980年代には総合造形だとか。そんな歴史があって、第一世代から第四世代に渡って様々なアーティストが活躍して来ました。僕は第五世代になるんですね。第五世代になると、コンピューターでものを作るとか、コレクティブでものを作るとかだけではなく、立体も作れば映像もやるし、建物だって作っちゃう。自由度が高いんですね。映画も作れば鰻ドラゴンもやっちゃうんです。何故か鳥居作ったり神主やったりもですよね。幅が広いんですよ。メディアアートというカテゴリーが必要なのか?という疑問も生まれるかもしれませんが、私の場合はコンピューターがあります。1番容易に全てのものが変容し得るのです。ただ、次第六世代、第七世代という事を考えると、コンピューターを基軸にするというのは生成AIを中心として人間の手の技をもう離れている訳ですよね。私はプログラマーなので、プログラムを書くのは得意なのですが、でも今ではもう手動では書かない訳です。プログラマーで映像作家で、電子工作が得意な、ロボットやハードウェアがいじれる、研究が好きな、美的感覚のある、立体造形が好きな、コンピューターグラフィック出身の人間なんです。そういう職能があるんですね。その職能がない子達が次のメディアアートをやるんだと思います。AIがあるから。なので、次世代のメディアアーティストは人類史的にどうなるの?といえば、これまでは道具を自分で作らないと難しかった職種なんですが、その職能の困難さが一旦回復するんじゃないかな?と思っています。普通に考えて、美術的な事をやっているのに電気工学を知らないといけないってハードルが高いじゃないですか。それが全部突破されて、フィーリングでやれる様になる。だからフィーリングが強い人が勝つんじゃないのかなとも思うのですが、良いメディアアートの作品って数字的に面白かったりだとか、ちょっと理系的な観点があるとコンテンツだけじゃないっていうか。コンテンツだけになっちゃうとメディアアートって弱いので。コンテンツと技術とコンテクスト。この三つを兼ね備えたメディアアートっていうのがやっといっぱい出て来るのかなと思っています。何故かというと、メディアアーティストって造形力が高くない人が多かったんですね。映像などもそうですが」。
最後に次代のメディアアーティストに一言をお願いした。
「AIで補填されないもの。面白いコンテクストだったり、その人の刻んで来た歴史だとか、そういうのはAIでは生まれないので。良い物を見て良い物を食べて不思議で面白い場所に行く事。審美眼が重要かなと。アナログな手法を愚直に、左脳で考えて右脳で実現させるというところでしょうか」。
深さもあれば潔さもある、落合氏ならではの次世代へのエールに、そして今回の展示会に触れて刺激を得た人達が何を成すのか?
落合陽一という人間には、そうした「人間の創出」をも生み出す事が出来るアーティストなのではないか?という可能性を感じずにはいられない。
今回のインタビューは、私の記者人生の中で最も得る物があった様に、きっと今後の未来を作り出す若者達に何かを響かせる事が出来ると信じて…。

2026年度特別企画展 落合陽一|天孫帰るってよ?

2026年度特別企画展 落合陽一|天孫帰るってよ?

企画趣旨

メディアアーティスト・研究者として国内外で多彩な活動を展開する落合陽⼀の個展を開催します。
2015年に提唱した「計算機⾃然|デジタルネイチャー」の概念を軸に、落合の多岐にわたる活動と思想を総合的に紹介するものとなります。⼤阪・関⻄万博の「null²」を経て、神話と地質学、古代と未来、物質とデジタル、東洋と⻄洋などの⼆項対⽴を超え、天孫降臨の地・⽕⼭と縄⽂⼈の記憶を宿す⿅児島県霧島アートの森にて、より重層的な世界観が具現化されます。
本展は、10年に及ぶ探求の集⼤成であり、過去・現在・未来を結び、⼈間とテクノロジー、物質と情報、⾃然と⼈⼯物の新たな関係を模索する公⽴美術館での初個展となります。

作家紹介 落合陽⼀

メディアアーティスト。1987年⽣まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波⼤学教授、東京⼤学准教授、2025 年⽇本国際博覧会(⼤阪・関⻄万博)テーマ事業プロデューサー。2016年 Prix Ars Electronica 栄誉賞、EU より STARTS Prize受賞、⽂化庁メディア芸術祭アート部⾨審査委員会推薦作品多数。
主な個展として「⽇下部⺠藝館特別展」岐⾩ 2021-2025、「昼夜の相代も神仏:鮨ヌル∴鰻ドラゴン」東京・Brillia Art Gallery 2024 など。常設展として「計算機と⾃然、計算機の⾃然」⽇本科学未来館 2019。その他の展⽰として「北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs」北九州市⽴いのちのたび博物館 2021、「⽇伯外交関係樹⽴ 130 周年『アンティポード、はるかなきみへ』展」サンパウロ 2025、「ミッション∞インフィニティ|宇宙+量⼦+芸術」東京都現代美術館 2026 など多数出展。さまざまな分野とのコラボレーションも⼿掛ける。

展⽰のみどころ

1. 活動 10 年の総括

本展は、2015年に提唱したコンセプト「計算機⾃然|デジタルネイチャー」から現在に⾄るまで、作家活動の最初期10年を総括するかのように、重要なクロニクルを含め、展⽰室(アートホール)の中を回遊するうちに、アーティストのこれまでと現在を包括的に体感することができる展⽰として構成されています。

2. 独創的な展⽰空間

会場周辺は、「天孫降臨」の聖地や活発な⽕⼭活動が続く霧島連⼭、約10,600年前の上野原遺跡に代表される縄⽂⽂化で知られています。伝統⼯芸や、写真史上にも重要な印影鏡(ダゲレオタイプ)の要素を加え、神々の宴にちなんだ展⽰や写真作品で構成された、諧謔味(かいぎゃくみ)ある空間が創出されます。

3. 地域連携と創造性

地⽅での⼤規模なテクノロジーアート展は、⽂化資源や観光の拠点としての価値を⾼め、伝統の現代的な再解釈や継承の新たなモデルを⽰す可能性を持っています。本展は、地域にあって最先端の芸術・技術に触れる貴重な機会となり、創造的な次世代の⼈材育成や地域のアイデンティティ形成に寄与します。

展覧会概要

展覧会名落合陽⼀|天孫帰るってよ?
会 期2026年7⽉11⽇(⼟)〜9⽉23⽇(⽔・祝)
休館⽇⽉曜⽇休園 [7/21(⽕)は休園、7/20(⽉)・8/10(⽉)・9/21(⽉)は開園]
開館時間9:00〜17:00[7/20〜8/31 の⼟・⽇・祝⽇は19:00まで、⼊園は閉園の 30分前まで]
観覧料⼀般 1,200(1,000)円/⾼⼤⽣ 800(600)円/⼩中⽣ 600(400)円
*( )内は前売りまたは 20⼈以上の団体料⾦
会 場⿅児島県霧島アートの森 アートホール
主 催⿅児島県⽂化振興財団/南⽇本新聞社/MBC 南⽇本放送/KTS ⿅児島テレビ
特別協賛トヨタカローラ⿅児島株式会社/株式会社久保⽯油/太陽ガス株式会社
特別協⼒株式会社セイビ堂/カリモク家具株式会社/ヤマト運輸株式会社
協 賛株式会社明興テクノス/濵⽥酒造株式会社
協 ⼒湧⽔町/霧島⼭麓湧⽔町観光協会/⿅児島第⼀交通株式会社・第⼀交通株式会社/株式会社島津興業/株式会社⿅児島銀⾏/株式会社南九州ファミリーマート/株式会社湧⽔町おこしエネルギー
制作協⼒⽇置市/霧島神宮/Craft x Tech Tohoku Project (Tangent)/郡⼭⼋幡神社/特定⾮営利活動法⼈ ACT.JT(理事⻑ 野村 萬)/⾼橋⿓太郎コレクション/株式会社⼭翠舎/⼗⼋番館/SUNAKI Inc./徳光軒/天孫降臨霧島九⾯太⿎保存会/⽇置島津家・吉冨⼭⼤乗寺跡管理⼈⻄郷隆⽂/Gallery & Restaurant 舞台裏
企画協⼒⼤⽊ 彩⼦(ジセカイ株式会社)
ゲストキュレーター森⼭ 朋絵(東京都現代美術館学芸員)

関連事業

1. オープニングセレモニー、対談(落合陽⼀×河⼝洋⼀郎)[7/11(⼟)14:30〜 場所:多⽬的スペース]

2. null²公式⻑編記録映画「さようなら、ホモサピエンス」上映会[8/25(⽕)13:30 受付開始 14:30 上映
会場:みやまコンセール *参加はこちら https://www.sakuratour.co.jp/events/ochiai-2026/movie

3. 学芸員によるギャラリートーク[8/2(⽇)・8/23(⽇)・9/6(⽇)14:00〜]

4. 関連グッズ等の販売